毎日お疲れ様です。「ちょっとだけ頭を空っぽにして笑いたいな」と思う瞬間、ありませんか?
今回は、そんなほっと一息つきたい時におすすめの面白い小話をお届けします。テーマは、毎年頭を悩ませる人も多い「ホワイトデー」。職場の愛され(いじられ?)キャラ「ななまる」が巻き起こす、クスッと笑えるホワイトデーのドタバタ劇をお楽しみください。
第12話:「ななまるのホワイトデー大作戦」
迫り来る3月14日と、お菓子業界の暗号
「マシュマロは『嫌い』、クッキーは『友達』、マカロンは『特別な人』……? なんだこれ、スパイの暗号か何かか?」
3月上旬。オフィスの片隅で、愛称「ななまる」こと七海(ななみ・28歳)は、スマホの画面を睨みつけながら頭を抱えていた。検索履歴は『ホワイトデー お返し センス いい 意味』で埋め尽くされている。
ななまるは、少しおっちょこちょいだが、その人懐っこい性格から部署のチワワ的な存在として可愛がられている。その結果、先月のバレンタインデーには、女性陣から「いつもお疲れ様!」と大量の義理チョコ(一部、高級な友チョコ含む)をゲットしていた。
もらった時は小躍りして喜んだななまるだったが、いざお返しの時期になると恐ろしい現実に直面したのである。
「無難にクッキーの詰め合わせにしようと思ったのに、『あなたはただの友達です』って念押しするみたいで感じ悪いか……? かといってキャンディ(意味:あなたが好き)を配って回ったら、ただの勘違いヤロウになってしまう!」
考えすぎたななまるの脳内メモリは、ホワイトデーの複雑怪奇なルールによって早くもフリーズ寸前だった。
閃きと、キッチンで錬成されたダークマター
「そうだ。市販品の『意味』に縛られるからいけないんだ。手作りなら、『日頃の感謝』という俺独自のメッセージになるじゃないか!」
ななまるの悪い癖が出た。思い立ったら一直線、しかし常に方向が少しズレているのだ。
日曜日、ななまるの自宅キッチンは戦場と化していた。彼が挑んだのは「流行りのカヌレ」。しかし、レシピを「だいたいこんなもんでしょ」と目分量でアレンジした結果、オーブンから出てきたのは、カヌレの形をした漆黒の隕石(ダークマター)だった。
「……焦げただけだ。中身はきっとフワモチのはず」
フォークを突き刺そうとした瞬間、カチンッ!と、およそ食べ物からは鳴ってはいけない甲高い金属音が響き渡った。
「……硬っ! 防弾チョッキの素材か何かか?」
試しに一口かじろうとしたななまるは、自らの前歯が砕け散る幻覚を見て静かにカヌレを皿に戻した。ホワイトデーまであと2日。ななまるの手元には、鈍器として使えそうな15個のダークマターだけが残された。
緊迫のオフィスと、鳴り響く銅鑼(どら)の音
そして迎えた、3月14日ホワイトデー当日。 その日のオフィスは、かつてないほど殺伐としていた。システムトラブルが発生し、朝から部署全体がピリピリとした空気に包まれていたのだ。
誰もが眉間にシワを寄せ、キーボードを叩く音だけが冷たく響く。とても「ハッピーホワイトデー!」と能気にプレゼントを配れる雰囲気ではない。
ななまるはデスクの陰で震えていた。手元には、苦肉の策でラッピングだけは無駄に可愛く仕上げた「隕石カヌレ」の箱がある。
「どうしよう……こんな空気でこれを渡したら、怒りを通り越して始末書を書かされるかもしれない……」
その時だった。立ち上がろうとしたななまるの足が電源コードに引っかかり、派手にすっ転んだ。同時に、抱えていたカヌレの箱が宙を舞い、床に激突した。
ガランッ! ゴロロゴロロ……カッチーーン!!!
静まり返ったオフィスに、まるでボウリングの球を大理石に落としたかのような、重厚かつ甲高い謎の爆音が響き渡った。
全員のタイピングの手がピタリと止まり、一斉にななまるの方を振り返る。
「な、ななまる……今の、何の音……?」 先輩の女性社員が、引きつった顔で尋ねた。
一番のお返しは「ほっと一息」の笑顔
「あ、あの……ホワイトデーの、手作りカヌレ……です」
床に転がる、どう見ても石炭にしか見えない物体。そして、先ほどの「カッチーン!」という音色。そのあまりのギャップと絶望的なセンスに、数秒の静寂の後、オフィスは爆笑の渦に包まれた。
「カヌレからあんな音するわけないでしょ!」 「ななまる、私たちに歯を折らせる気!?」 「ごめん、ツボに入った……お腹痛い……!」
ピリピリしていた空気が嘘のように、部署全体が笑い声で溢れかえった。トラブル対応で張り詰めていた皆の糸が、ななまるの盛大な失敗によって一気に解けたのだ。
「す、すみません! お詫びに、下のカフェで全員分のコーヒー買ってきます! もちろんグランデサイズで!」
顔を真っ赤にして走り出すななまるの背中を、温かい笑い声が見送った。
結局、その年のホワイトデーで彼が配ったのは、硬すぎる手作りお菓子(という名の笑いのタネ)と、美味しいコーヒーだった。しかし、女性陣からは「今までで一番、ほっと一息つけたホワイトデーだったよ」と、最高の評価を得ることになったのである。