ほっと一息つきたい時に読む面白い小話

母の日プレゼントのイラスト

毎日、家事に仕事に育児にと、本当にお疲れ様です。「ちょっとだけ肩の力を抜いて、クスッと笑いたいな」と思うことはありませんか?

今回は、そんなほっと一息つきたい時におすすめの面白い小話をお届けします。

テーマは、毎年「今年は何を贈ろう?」と頭を悩ませる「母の日」。一生懸命だけどいつも絶妙にズレている愛されキャラ「ななまる」が巻き起こす、予想外の母の日ドタバタ劇をお楽しみください。


ななまるの「斜め上」な母の日ギフト

カーネーションの呪縛と、ななまるの決意

ゴールデンウィークの喧騒が過ぎ去り、初夏の風が吹き始めた5月上旬。 オフィスのデスクで、愛称「ななまる」こと七海(28歳)は、カレンダーの『第2日曜日』を赤ペンでぐるぐると囲んでいた。

「いよいよ母の日……。今年こそは、お母さんを心から喜ばせたい!」

ななまるは、大の母親っ子である。しかし、彼女の「良かれと思って」発動するプレゼント選びのセンスは、時に周囲をパニックに陥れる破壊力を秘めていた。(※過去には親友の誕生日に業務用カビ取り剤3本セットを贈った実績がある)

「毎年カーネーションじゃマンネリだし、お母さん、『花は枯れちゃうから少し寂しいわね』って言ってたな……」

ななまるの母親は、庭いじりと料理が大好きな、超がつくほどの現実主義者だ。飾って終わりのものより、実用的なものを好む傾向にある。

「枯れなくて、育てる楽しみがあって、しかも実用的。……よし、これだ!」

ななまるの脳内で、危険なピタゴラスイッチがカチリと音を立てて作動した。彼女はスマホの検索窓に「母の日 育てる 美味しい 枯れない」と打ち込み、現れたある商品に目を輝かせたのだった。

完璧なチョイスと、届いた「巨大な箱」

母の日当日。実家でくつろいでいたななまるの母親の元に、宅配便のトラックが到着した。

「お届け物でーす!」 配達員の爽やかな声とは裏腹に、彼が台車に乗せて運んできたのは、大人が両手で抱えなければならないほど大きく、そして異常に重たい段ボール箱だった。

「あらあら、七海からだわ。お花にしては随分と重たいし、大きいわね。……鉢植えの果物の木かしら?」

母親はワクワクしながらカッターでガムテープを切り裂いた。 パカッ。

箱を開けた母親は、そのまま5秒間フリーズした。 そこに入っていたのは、可憐な花でも、美味しそうな果実の苗木でもなかった。

長さ約90センチ、直径15センチほどの、ゴツゴツとした本物の「丸太」だったのだ。しかも、表面には等間隔に、謎の白いポッチが無数に埋め込まれている。

「……薪(たきぎ)? うちはオール電化だけど……」

混乱する母親のスマホが、絶妙なタイミングで鳴り響いた。画面には『ななまる』の文字が光っている。

丸太の正体と、お風呂場の占拠

「お母さん! ハッピー母の日! プレゼント届いた!?」 電話口のななまるは、自信に満ち溢れた声を出していた。

「七海……ありがとう。でもこれ、何かしら? 山から木を切り出して送ってくれたの?」 「ふふふ、ただの木じゃないよ! それ、『原木(げんぼく)しいたけ栽培キット(本格派)』だから!」

ななまるは得意げに説明を始めた。 カーネーションは枯れるが、しいたけの原木は数年にわたって収穫できること。母親がきのこ料理を愛していること。スーパーの菌床しいたけとは比べ物にならないほど、肉厚でジューシーな「本物のしいたけ」が採れること。

「お母さん、家庭菜園好きでしょ? 最高に実用的で、育てる楽しみもあるでしょ!」

「……なるほどね。気持ちはすごく嬉しいわ。でもね、七海」 母親は、同封されていた『栽培のしおり』を読みながら、静かに、しかし力強く言った。

「これ、『最初に原木を一晩水に完全に沈めてください』って書いてあるんだけど。お母さん、今夜はお風呂に入れないってことかしら?」

「あっ」

ななまるは完全に失念していた。本格的な原木栽培をスタートさせるための「浸水作業」には、一般的な家庭においてバスタブという巨大な水槽を丸太に明け渡す必要があるということを。

最高のスパイスは「大爆笑」

「ご、ごめん! まさかお風呂場を占領するサイズだとは思わなくて……!」

平謝りするななまるに対し、電話の向こうから聞こえてきたのは、怒り声ではなく、母親の盛大な笑い声だった。

「アハハハ! もう、七海ったら本当に相変わらずね! 母の日にカーネーションじゃなくて、まさか『丸太』をもらってお風呂に沈めることになるなんて、想像もしてなかったわ!」

涙が出るほど笑った母親は、「いいわ、今日はお父さんと近所のスーパー銭湯に行ってくるから、その間この子(丸太)にはお風呂でゆっくり浸かってもらうわね」と嬉しそうに言った。

「お母さん、怒ってない……?」 「怒るわけないじゃない。こんなに笑わせてくれて、しかも美味しいしいたけまで食べられるんでしょ? 今までで一番、思い出に残る母の日よ。ありがとうね」

その言葉を聞いて、ななまるの肩からすーっと力が抜け、ほっと一息ついた。

数ヶ月後の秋。 ななまるの実家の食卓には、これでもかというほど肉厚に育った「原木しいたけ」のバター醤油焼きが並び、家族全員で舌鼓を打つことになるのだが、それはまた別のお話。


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