「ななまる、お前ってホワイトデーにお返ししたことある?」
同期の田中にそう聞かれたのは、3月10日の昼休みだった。
「もちろんあるぞ」
「お、意外とマメなんだな」
「お返ししないと後が怖いからな」
俺のこの言葉に、田中は大きく頷いた。
「確かに……。義理でも、うっかり忘れると地獄だよな」
俺は遠い目をした。
――去年のホワイトデー、俺はとんでもない失敗をした。
2月14日、職場の女性陣からチョコをもらった俺は、3月14日にしっかりお返しを用意していた。おしゃれな紅茶の詰め合わせだ。間違いなく喜ばれる品だろう。
だが、俺はやらかした。
その日の朝、満員電車に押し込まれた際、手提げ袋の中で紅茶の箱が圧死。さらに、不運にもカバンの水筒が漏れてしまい、紅茶の箱はぐしゃぐしゃになり、完全にアウト。
慌ててコンビニで急遽代用品を探したが、それっぽいものがない。結局、俺は「会社の近くに着いたら何か買おう」と思いながら出社した。そして――完全に忘れた。
気づいたのは昼休み。
「ななまるくん、ホワイトデーのお返し、楽しみにしてるね!」
同僚の女性に笑顔で言われた瞬間、背筋が凍った。やばい。何も買ってない。
「……ちょっと待っててくれ」
俺は昼休みをフル活用し、デパ地下へダッシュ。だが、ホワイトデー当日、どの店も行列だ。時間がない。何も買えないまま、昼休み終了。
結局、その日は「ごめん、今日中に渡すから!」と言って、仕事終わりにデパートへ駆け込んだ。
しかし、夜のデパートはすでに戦場の後だった。ホワイトデーコーナーはほぼ壊滅。残っているのは妙に高価なチョコレートか、明らかに間に合わせ感のある商品。
俺は泣く泣く、ちょっと高めのマカロンセットを買った。
翌日、お返しを渡した時、みんなに言われた。
「ななまるくん、ホワイトデーに遅刻するのって、新しいね」
……心に刻んだ。ホワイトデーのお返しは、前日までに準備しておくべし。
今年は完璧にリベンジする。そう誓って、俺はすでにプレゼントを用意している。
……が、今朝、家を出る時に母から一言。
「あんた、それ家に置いていってるけど、大丈夫?」
今年も俺のホワイトデーは波乱の予感だ。

