「ななまる、お前本当に受けるのか?」
親友のタケルが驚いた顔で言った。
「もちろん! ずっと憧れてたんだもん!」
ななまるは胸を張る。彼が目指すのは、全国的に有名なスイーツコンテスト『スイートマスターズ』。厳しい審査を経て、優勝者にはプロのパティシエへの道が開かれる。
けれど、周囲の反応は微妙だった。
「ななまるって、お菓子作りそんなに得意だったっけ?」
「前に作ってたクッキー、固すぎて歯が折れそうだったよね?」
そんな言葉が飛び交う中、ななまるは決して諦めなかった。
「甘いものが好きなら、美味しいものを作れるはず!」
彼のポジティブさは底なしだった。失敗を重ねながらも試行錯誤し、夜な夜なキッチンにこもる日々。
ついに、一次審査を通過。そして、最終審査の日がやってきた。
会場は、ホテルの豪華な宴会ホール。審査員の前に、ななまるは震える手でケーキを差し出した。
「僕のオリジナルケーキ、『ななまるスペシャル』です!」
クリームはふわふわ、スポンジはしっとり。上には鮮やかなフルーツが散りばめられ、見た目は完璧だった。
しかし——
「うん、見た目はいいね」
「……味はどうかな?」
審査員がひと口食べる。その瞬間、ななまるの心臓はバクバクと鳴った。
「これは——」
審査員の言葉が途切れ、会場に静寂が訪れる。
果たして、ななまるの運命は——!?
審査員がゆっくりと口を開く。
「……意外だな」
ななまるはゴクリと唾を飲んだ。
「スポンジはふんわりしていて、クリームの甘さもちょうどいい。でも……」
ななまるの心臓が止まりそうになる。
「少し、個性的すぎるね」
会場がざわめく。
「フルーツの組み合わせが大胆すぎる。柿とブルーベリーを合わせるなんて、普通は考えない。だが、それがクセになる味わいを生み出している」
「確かに。最初は戸惑ったが、食べるほどにハマる」
「しかし、万人受けするかというと……難しいところだな」
ななまるは複雑な気持ちだった。褒められているようで、そうでもないような……。
「結果は、後ほど発表する。楽しみに待っていてくれ」
審査員の言葉に、ななまるは深くうなずいた。
結果発表の時間。緊張に包まれる会場で、ななまるは拳を握りしめた。
「優勝は——」
司会者が名前を読み上げる。
「エントリーナンバー12、佐倉さくらさん!」
——ななまるではなかった。
悔しさがこみ上げる。でも、不思議と涙は出なかった。
「次に、特別賞の発表です」
特別賞?
「個性的なアイデアが評価され、今後の活躍が期待される方に贈られます。受賞者は——エントリーナンバー70、ななまるさん!」
会場が拍手に包まれる。ななまるは目を見開いた。
「俺が……特別賞?」
「やったじゃん!」
タケルが駆け寄り、肩を叩く。
「お前のケーキ、やっぱりすごかったんだよ!」
審査員の一人が微笑む。
「ななまる君、君のケーキには可能性を感じる。独創的な感性を磨けば、もっと素晴らしいパティシエになれるよ」
ななまるは、大きく深呼吸した。
——悔しくないと言えば嘘になる。でも、認められた。俺のケーキが、俺の努力が。
「ありがとうございます!」
こうして、ななまるの挑戦は新たなステージへと続いていく。
合格祝いのケーキは、自分で作ることにしよう。最高に美味しい、世界に一つだけの味を。

