今年の夏は、記録的な猛暑だった。
街を歩けば、熱気がもわっとまとわりつき、アスファルトがジリジリと靴底を焼く。
愛称「ななまる」は、エアコンの効いた部屋から出るたびに、体力がスーッと溶けていく感覚に襲われていた。
「これが…世に言う夏バテってやつか…」
朝から食欲もなく、冷たい麦茶ばかり飲んでいたら、余計に体がだるくなってきた。
SNSを開くと、友人たちが「夏バテ予防レシピ」や「簡単ひんやりスイーツ」を楽しそうに投稿している。
それを眺めながら、ななまるはため息をついた。
「よし…何とかしないと、このままじゃ夏を乗り切れない…」
行動派(…のはず)のななまるは、さっそく夏バテ解消の情報収集を開始した。
スマホで「夏バテ 改善 食べ物」と検索し、
「豚肉の生姜焼き」「梅干し」「ゴーヤチャンプルー」といったキーワードが並ぶページをスクロールする。
「うーん…どれも美味しそうだけど、今は作る元気が…」
そこで目に止まったのは、「簡単!5分で作れる冷やしうどん」のレシピだった。
しかも、薬味にミョウガと大葉を乗せれば、香りで食欲アップ間違いなし、と書いてある。
ななまるは思わず「これだ!」と声を上げた。
エアコンの効いた部屋から一歩出て、スーパーまで歩く。
汗だくになりながらも、袋いっぱいに食材を詰めた。
――それが、この夏のちょっとした冒険の始まりになるとは、ななまるはまだ知らなかった。
帰宅したななまるは、さっそく冷やしうどん作りに取りかかった。
氷水でキュッと締めたうどんを器に盛り、刻んだ大葉とミョウガをたっぷり乗せ、冷たいつゆを回しかける。
その香りだけで、失われていた食欲が少しずつ戻ってくる。
「いただきまーす!」
ズルズルッ…と一口すすった瞬間――
……冷たすぎて、歯にキーンとくる痛み。
「うぅっ、夏バテよりも先に知覚過敏が来た…!」
さらに、ミョウガを乗せすぎたせいで、なんだか頭がふわっとしてきた。
「あれ…? 私、涼しくなるはずが、なんでこんなにボーッとしてるんだろう…」
結局、うどんを食べ終えるころには、涼しいけれど妙に眠たいという不思議な状態に。
そのままソファに倒れ込んだななまるは、気づけば夕方までぐっすり昼寝していた。
目が覚めると、あれほど重かった体が嘘のように軽くなっている。
「…あれ? 夏バテって、もしかして“ちゃんと休む”のが一番の特効薬じゃない?」
そうつぶやきながら、ななまるは麦茶を一口。
冷やしうどん作りの冒険は、思わぬ形で終わったが――
その日以来、ななまるは「夏バテ解消法」として、
冷たいうどん+昼寝という、誰もが笑ってしまうシンプルなレシピを密かに愛用している。

